現在、中学から大学に至るまで、受験の傾向としては覚えないといけない内容は減っていく傾向にあります。
詰め込み教育に対する批判は昔から根強いものがあります。これは私が子供の頃から言われていたことですから、その頃から現在まで徐々に記憶から思考へという流れは続いていました。
そこへ来て、コンピューターの発達やスマートフォンの普及により、必要な知識は検索すればすぐわかるようになったことも大きいでしょう。
その一方で暗記から完全に逃れることは不可能です。スマホ持ち込みの試験は今後もありえず、最低限の知識は絶対に要求されます。そして何より、豊富な知識は理解を助けてくれます。あまりにも枝葉末節な知識は不要としても、知識は多いに越したことはないのです。覚えることの価値が低くなると思われている今こそ、覚えるための方法は持ち合わせておいた方が賢明と言えます。他人と確実な差をつけるためにも知識を蓄えるべきなのです。
そこで今回はよく覚えられて忘れにくい暗記法の作り方についてご紹介します。
効果は一生!? 覚えたことを忘れない
1マイル 人の群来る(1609m)
三辺に二辺挟角二角挟辺(三角形の合同条件)
磁石つく 鉄ニッケルにコバルトだ
リトマス紙酸性赤くアルカリ青く
三権は国会内閣裁判所
裁判所最高高等地方に簡家
エベレストへ早(はや)始発(8848m)
法然浄土に親鸞真南無妙法華の日蓮宗座って禅宗栄西臨済宗道元曹洞
これらは私が小学校のときに覚えた暗記法の一部です。かれこれ40年近く経っているのにまだまだ覚えているのです。もう一生忘れることはないでしょう。認知症になってもこれは覚えているような気がするほどです。
これら数々の暗記法を作ったのは、私が通っていた塾「いもこじ学舎」の山中馨先生です。現在も息子さんが塾をやっていらっしゃるようですから、引き継げる暗記法は使っているのではないでしょうか。暗記法自体はさほど特殊な学習法ではありません。巷でも語呂合わせのような形で頻繁に使われています。この暗記法は詳しくは「1フレーズ暗記法」「4秒暗記法」と言った方がわかりやすいですが、小さい頃から親しんできたシンプルな呼び名の「暗記法」でいきたいと思います。恩師山中先生へのオマージュも込めています。
そんな今でも忘れないほどの強烈な効果を誇る暗記法。息子に教えるときには必ず採用しようとずっと考えていました。その際には、覚えているものでそのまま現在も使えるもの(上記のものなど)はそのまま使わせてもらうつもりでした。
しかし時代に合わなくなっているものは当然使えません。例を挙げると「ソ連」はとっくになくなりました。そして中国はまだまだ地味な国でした。そういうデータ系は現役戦力にはなりえません。また日本でも四大工業地帯が三大になるなど、工業が盛んな地域の盛衰もあります。そのように常識や学説が変化したものもダメです。さらには出題傾向が変わって使わないというものもあるでしょう。
それにそもそも正直に言えば「覚えているものがある」のは確かですが、全部覚えているわけではありません。暗記法の本には2種類あって歴史年代の方は奇跡的に現存していますが、4科目が詰まった本(ハンディサイズの厚くない本でした。)の方は残っていません。歴史年代の方でも数十年ぶりに見てみると「こんなのあったあった」というものも多いのです。もう一冊の方もおそらく同じ感想を持つでしょう。そんな理由で、結局暗記法はたくさん自作することになりました。それでは次からその作り方を見ていきます。
よくこんな古いものが残っていたものです。田舎から送ってきた荷物に入っていました。母は何でも捨てるのに、これは取っておいたんですね。ちなみにこれが見つかったのは最近で、息子の中学受験には間に合っていません。
暗記法の作り方
4秒以内で言えるようにする
最も重要なことは、覚えたい内容を短いフレーズに落とし込むことです。目安は4秒以内、できれば3秒くらいがベストと考えます。
30年前の古い本ですが、54歳で円周率暗唱の世界記録4万桁を成功させた友寄英哲さんの著書です。数字を仮名に変換する語呂合わせで10桁ずつ覚えていく手法が紹介されていますが、その語呂合わせフレーズが3秒を目安に言える長さになっています。それくらいの長さが覚えやすくて思い出しやすいという実例です。
それくらいの長さがちょうど良いというのは教えられなくても感覚的にわかりますが、権威の後ろ盾がある方が何もないよりはやってみようかという気になるでしょう。
その3〜4秒の長さの中には、もっとたくさんの情報が含まれていることの方が多いです。
理科の単元のひとつ、音を例を挙げます。
1の「音は波 伝わるものなきゃ聞こえない」の波は振動波のことで、イメージ図は右のように表されること、波は空気を振るわせるから、真空状態では音は聞こえないんだな、ということまで考えが至れば良いでしょう。そして全体を終えたら、7の「個体は速く音を伝える」との関係も考えられるようにしたいところです。この辺りは音の本質なので是非ともつかんでおきたいところと言えます。(本質をつかむ話は次回。)
4の「振動の周期短い高い音」には、その対として「振動の周期が長い低い音」も含まれていると意識することは絶対に必要です。フレーズの字面だけの理解では足りないということです。
一問一答問題とリンクさせることもできる
前回の記事(歴史学習法)で一問一答問題とベース本を交互繰り返すことでレベルを上げていく話をしました。一問一答問題を作る際にはだいたい暗記法をセットで作るようにしました。というよりは暗記法に合わせて問題を作ると言った方が正確かもしれません。
例を見てみましょう。題材は地理です。
このように一問一答と暗記法をリンクさせると、相乗効果で理解が深まります。上から三番目の「飛騨木曽赤石日本アルプス」(これは山中先生の作か私の作か不明です。そういうフレーズは多いです。)では北、中央、南と順番に並べているので、中央に位置するのはという問いには木曽山脈が答えになります。そういう含みも意識することで、ただの一問一答ではなく、深みを持たせることも可能です。
リズムよく言えるものが理想だが…
フレーズはリズムに乗せて言える方が覚えやすくなります。日本人にとっては五七調が最も心地よく聞こえるのではないでしょうか。
ただし、あまりこだわりすぎる必要はありません。ルールを厳格にしてしまうと嫌になってしまいます。ユルさを含んでいる方が長続きします。それに、何度も読んでいるうちに何となくリズムが出てくるものです。
明治時代の文学を例に見てみます。
数だけ数えると5にも7にもなっていないものが結構あります。それでもほとんどのものは意識すれば五七調っぽく読むことができます。どうしてもリズムよく読めないこともあり得ますが、結局は口が滑らかに動きさえすれば大丈夫です。その証拠もお見せします。
これは息子が大学で作った暗記法です。中には全くリズムを考えられていないフレーズもあります。理由を息子に聞くと、情報を漏れなく入れることが大事だとのこと。そして何より、リズムとか考えている時間がないそうです。暗記法を作って読んで録音し、それを繰り返し聞くことが重要で、リズムにこだわる暇がないということのようです。
暗記法の学習の進め方
作成の目的と時期
勉強は、その科目のベースになる本を設定して、それをサクサクと読めるようにすることが目的の一つですが、その手始めに暗記法を作りながら用語や基本概念をインプットしていく。そしてベース本を読み込んでいく。そういう流れが私の勉強の進め方です。
そのため、暗記法を作るタイミングのは学習の序盤が大半です。時々、学習の理解が進んで腑に落ちるような発見をしたときにそれをフレーズにしておくことはありますが、やはりほとんどは勉強のし始めです。
音読する
単元ごとに10〜30個くらいのフレーズができますが、それを音読していきます。だいたい10回くらいまでにはフレーズが口になじんでスラスラ読めるようになります。繰り返しますが、何度も読んでいると自然にリズムよく読めるようになります。たまにどう頑張っても五七調で読めないものがありますが、それが良いスパイスとなって返って覚え覚えやすくなることもあります。とにかくスラスラ読めればそれで良し、としてください。
ただし、それができていないのはダメです。滑らかに読めるかどうかは口が覚え、頭に残していく上での生命線です。必ずスラスラと読めるようになってください。
録音して何度も聞く
読めるようになったら録音します。ここが昔との一番の違いと言えますが、録音することが断然楽になりました。私も高校時代から録音して音声学習をしていましたが、そのころはラジカセにマイクをつけてカセットに録音でした。もちろん噛んだり言いよどんだりすればやり直しです。それに比べれば今は楽なものです。ICレコーダーを使って録音し、パソコンで編集すれば良いのです。録音時に失敗してもその場で言い直して、編集時に消せばいいのです。雑音も入りにくいし、環境が段違いです。使わない手はありません。
使っていた(現役です。)ICレコーダーはオリンパスのごく普通のものです。それで十分に録音できますが、音質にこだわる人はハイエンドモデルを使うと良いでしょう。私にはそのこだわりはわかりませんけど。(皮肉じゃなくてこだわれる人は素直にすごいと思います。)
録音する目的は復習を楽にすることです。英語学習では耳学習を取り入れている人は多いと思いますが、普通の暗記系科目とも大変相性の良い学習法です。「門前の小僧習わぬ経を読む」ということわざもあるくらい、耳から聴いたものは覚えられて忘れにくいのです。しかも3〜4秒でまとまったフレーズの暗記法を聴くのですから、ますます効果は高くなります。
聴くと同時に口にも出します。ちょっと遅れて口に出す、英語で言うところのシャドウイングをしたりすれば、記憶への定着率も高くなること請け合いです。
読む練習をし、録音し、聴き、話す。録音するまではちょっと手間ですが、後は聴いて話すだけの楽な勉強です。気楽にできて効果も上がる勉強法をしないのはかなりもったいないのではありませんか。
まとめ
ベースになる本を読んでいく上でわからない語句や概念があれば、それを調べて理解し、3〜4秒で言い終わるフレーズの形にしていきます。そのフレーズを「暗記法」と呼びます。暗記法は情報を細分化したものですからそれらを一つ一つ理解していくと、やがて他の情報とのつながりも生まれて全体の理解へとつながっていきます。
暗記法は復習しやすいという特長を持っています。短いフレーズなので口に馴染みやすく、そもそも記憶に残りやすい性質なのです。それを読み、録音し、さらに口にする練習を繰り返せば、簡単には忘れることのない記憶として定着してくれます。
最後に付け加えると、多少拙かったり不出来に感じるとしても、自作に勝るものはありません。作る時点で考えることが最も良い勉強になるからです。とはいえ、小学生にはなかなか厳しいのも事実です。全部は作り切れないかもしれません。ちょっと先にはなりますが、私もこれまで作ったものをリフォームして、現在の戦力になるものを作る予定ではいます。少しはお力になれると思います。ただ、できればそれを期待せずに自作することをオススメしておきます。
ここまで読んでいただきましてありがとうございました。
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