8月に医学部受験における女子一律減点問題が話題になりました。その時にも記事を書きましたが、この問題に対する私の意見は、
「国際的世論に合わせると男女差別は今後すべきではない。そうしないと野蛮国扱いされてしまう。そして、女性がもっと働きやすい環境を整えていかなかればならない。」
というものでした。
この話が出たとき、多浪生や再受験の方問題にならないのかと考えていましたが、案の定見つかってニュースになってしまいました。
今回は医学部受験の現浪差別問題についての意見を述べたいと思います。それに当たって、息子から話を聞いた話も紹介していきます。国公立と私立の違いや大学ごとに浪人生の扱いは違うでしょうから、必ずしも医学生の平均的な考えとは限りませんが、参考にはなるでしょう。
インデックス
現浪差別は周知の事実
この問題でおもしろいところは、どこの大学が多浪、再受験に寛容で、どこが厳しいのかを、ほとんどの受験生が知っているということです。だから医師や医学生、そして医学部受験生にとってはニュース性の薄い話題なわけです。
<参考URL>
テレビを見ていたら、多浪した医学生がインタビューで「そんなことが行われているとは知らなかった。許せない。」というような話をしていました。しかしこれには非常に違和感を感じます。言っていることが本当ならば、この人はよほどの情報弱者です。あるいはやらせのインタビューなんじゃないかと思うくらいです。
そう思うほどに現浪差別は当たり前の話で、いまさらこれが問題になるのが不思議です。女子の一律減点はあるんだろうなと思っていた程度でしたが、現浪差別ははっきり認識していましたからなおさらです。
ただし、今回判ったこともありました。昭和大学の二次試験の小論文と面接で、80点満点の中で現役生はプラス10点、1浪生はプラス5点という基準が存在したことです。昭和は再受験生寛容度は厳しい方と言われています。そこに基準があったということには驚きました。
一次試験は学力を測るもので、二次は医師不適格者や多浪生・再受験生を落とすものだという認識だったから、基準があったと知った今も、もっと露骨に操作してるんじゃないかと疑ってしまいます。昭和でこのくらいなら、現浪差別って案外大したことないなという感想です。
女子差別の方は同じ年齢の学生が不公平な扱いを受けるので改善すべきです。しかし、現浪差別についてはある意味ハンディキャップとしてあっても良いという考えです。もちろん浪人の方が強者という意味でのハンデです。
浪人は公平なのか
浪人はドーピング?
今回の昭和大学の問題。おそらく他大学まで飛び火するでしょう。世間の怒りが収まらないからです。では、世間はこの話のどこに腹を立てているのかというと、どうやら公平な試験が行われていないことのようです。
報道ではしきりに不公平だのフェアじゃないだのと言っています。ですが、考えてみてください。勉強の年数が違う人が同じ試験を受けることは、万人の目から見て公平なのでしょうか。
良くも悪くも日本の教育は平等で、飛び級は一部の例外を除き、一般には認められていません。そうやって守ってきた平等です。ならば、教育の年数を守って勉強してきた人と、その人よりも余計に勉強をしてきた人を全く同等に扱うことはフェアとは言い切れない気がします。
恥をさらせば、私は1浪しました。これといった戦略も持たず、漫然と高校生活を送っていたからです。はっきりとした失敗で、自分に責任があります。浪人してもなお真剣に勉強に取り組んだとは言えませんが、それでも現役生よりは勉強時間も豊富で恵まれた環境でした。私よりも入試で点が低かった真面目な現役生はたくさんいたでしょう。その時とは時代も違うし私立文系と医学部という違いも大きいですが、浪人は恵まれているという事実は不変です。
その経験から、浪人は一種のドーピングと思っています。理由はどうあれ失敗したのにまた挑戦する権利を与えられ、勉強に専念する時間を与えられるからです。だから浪人生に多少のハンデを課す大学があっても文句は言えません。
一浪までは仕方ない
私立文系の私を引き合いに出したのが本当に申し訳ないくらい、医学部、特に現在の医学部は難関です。真面目にやってきたけれども、結局足りなかったとか、健康を損なったなどの運の要素も絡まって、残念ながら浪人生活を送る羽目になった人もいるでしょう。
そんな医学部浪人生でも、公立高校の一浪生はちょっと大目に見てあげたいところです。私立中高一貫校と違い、高3の最後の方まで授業があります。たっぷり演習に充てられる時間はありません。それに比べると私立の浪人生は反省すべき点が多いはずです。
文系から理系への転向、いわゆる理転の場合も一浪はやむを得ないでしょう。大幅な方針転換をしてまで目指すのです。悩んできた分意欲もあるでしょうですから応援したいですね。
でもそんな人達でも、昭和大学のように少々のハンディを課す大学があるなら受け入れるべきだと思います。それほど勉強に専念できる一年間は大きく有利なのです。
それに、一浪ならハンディを課さない大学は存在します。特に国公立なら一浪はおそらく現役とほぼ同じ扱いでしょう。また、すべて試験の点で決めると言っている私立大学もあるのですから、そういうところを受ければ不公平だなんだと嘆かずに済みます。
二浪以上はハンデやむなし
これが二浪以上となると、そうなってしまった理由はともかく、勉強時間の多さと年数を経た分の経験値を加味できるので、理論上一浪以上に有利と見ることもできます。すると、ハンデをつけられても正にやむなしというところでしょう。
さらに再受験生もいます。息子の大学にも東大出身者がいたりします。元々東大に入った実績があり、卒業していてもまだ二十代半ば。受験勉強の記憶も残っているでしょうし、英語力は上がっていることが多い。十代に比べれば大局的に捉えることのできるようになっているでしょうから、勉強をする上では圧倒的に有利です。そんな人達が現役生と全く公平などとはとても言えません。ハンデがあって当然です。
一方、リカレント枠はあっても良いと思っています。リカレント教育とは、社会人としての経験を積んだ人が再び大学に入りなおして学ぶことです。そういう人がいれば社会は多様性を増します。医師が世間知らずとの批判も多少そらせるでしょうし、若い医学生との世代間の交流は互いにメリットもありそうです。ただし、枠を数名にする必要があり、現役一浪をあまり圧迫することがあってはいけないといけません。そして再受験生はそちらに回った方がいいのではないでしょうか。
大学は現役生を望んでいる
現役の方が成績が良い
大学側が現役生を欲しがるのには当然理由があります。やはり一番大きいのは、現役はまじめで優秀な確率が浪人や再受験に比べてはっきりと高いことです。
ここからは息子から聞いた話が主でどこの大学にも当てはまるとは言えませんが、少なくとも一つの大学では確かな話です。
成績上位者はほとんど現役ばかりです。元々現役の比率が高いですが、それにしても偏りすぎなくらい現役の方が優秀とのこと。やはり現役で大学に入るということは、真面目だったり計画性が高いことの間接的な証拠と言えそうです。当然、国家試験でも現役生はほぼ落ちることがありません。
解剖実習が終わった大学も多いでしょうけれども、その追試者が発表されたそうで、その中に現役はゼロだったという情報もあるそうです。その結果、留年するのは浪人生の方が比率が高くなるのは必然ですね。大学側が現役を望むのは無理もない話です。
実働年数が長い
現役一浪二浪くらいなら大した差ではありませんが、再受験生との比較になると、医師として活躍できる期間に違いが生じることも、大学側としては気になります。卒業生は大学付属等系列病院で働くことが多いですが、若い医師の方がのべ勤務年数が長いので戦力を長く保持できます。そういう観点からも、一番欲しいのは現役生ということになります。
また、大学は一定数研究の方にも行ってほしいと考えていますが、その点から見ても若い人材の方が良いに決まっています。
以上のことから、現役と、再受験を含む浪人との間に多少の差別があるのは問題ないと考えます。資格試験ではなく教育機関ですので、年齢差をとっぱらった公平性を保証する必要はありません。
一次試験で学力を見ているのだから、二次試験で誰を選ぶかは大学側の裁量で構わないと思います。多浪・再受験に厳しい大学でも、一次試験で圧倒的な差を付けられるくらいの学力差を示した受験生ならば採っているのではないでしょうか。それでも不満なら、年齢で差別しない大学を受験する道もあります。
昭和大学のように、現役と一浪に加点される基準を知らなかった、聞いていなかったと怒る人がいるのですから、いっそ公表してしまえばどうでしょうか。そうすれば現役生は喜んで受けるでしょうから、マイナスばかりとは言えません。防衛医大などは受験資格自体が二浪までと明記しています。任官の問題もあるので仕方ない基準ということもありますが、やはり明記してあることが重要で文句をつけようがありません。女性差別と違って、募集要項にはっきり明記しておけば問題のない話だと考えます。
医師は生命、健康に関わる職業です。少しでも優秀で真面目な人材が望まれます。それなら、現役優遇に目を瞑っても、多くの国民にとっては利益となるんじゃないでしょうか。
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