毎年8月くらいに、国際科学五輪のニュースが新聞などに掲載されます。物理、化学、生物、数学、地理などの種目、取ったメダルの色(金・銀・銅)、氏名、高校名が発表されています。
それを目にすると、今年もそんな時期になったと感じると同時に、日本の若者の活躍が頼もしく思われ、これからの国の未来を引っ張ってくれる頭脳に期待させられます。
かなり前には、息子もこんなところで活躍できるような人材になってくれないかな、なんていう淡い希望を持ちました。しかしそのような場所で輝けるのは、才能、意欲、環境に恵まれた子だけだったようです。私はそれだけのものを用意してやれなかったので、希望が叶うことはありませんでした。
ただし、そこまでいかなくても、それら頂点で活躍する選手たちを下支えするピラミッドの土台となることは可能です。その方法は国際大会の予選に当たる国内大会に参加することです。
息子も数学五輪にはずっと参加しました。当然、国際数学五輪にいくレベルではありません。それでも参加したことには結構大きな意義があり、実際に役に立ったと考えています。
今回は数学五輪の概要や勉強法、特別ではない一般人参加すべき理由などを見ていきたいと思います。
インデックス
数学五輪とは?
毎年夏に国際数学五輪(IMO)が世界のどこかで行われています。昨年(2018年)はルーマニアで開催され、日本選手の成績は金1銀3銅2でした。複数名いるのは、上位1/12が金メダルと決められているからです。だから金は世界で1人ではなく何人もいることになります。
選手の出身校は灘、筑駒、開成、洛南など、そうそうたる学校が多い。これはだいたい毎年同じです。もちろん有名校ばかりになるのは結果的にそうなるだけで、各選手予選を勝ち上がって選ばれています。
その予選に当たるのが数学五輪(JMO)です。予選参加者から200名程度(約5%)がAランクとされて本戦に進めます。そして本戦で上位に入賞した20名ほどがAAランクとされて合宿に招待されるそうです。ここから先はハッキリしたことはわかりません。JMO本戦での順位でIMO出場が決まっているのか、それとも合宿内でさらなる選考会があるのか不明です。いずれにせよ、合宿参加メンバーから選ばれるようです。
数学五輪の種目と開催時期は?
国際数学五輪(IMO)の開催日は夏です。その予選となる数学五輪(JMO)はその年の1月、成人の日に行われます。JMO参加資格は高校3年生までですが、高3生はIMOの時期には高校を卒業してますので、IMOの参加資格はありません。そもそもセンター試験とかぶる日程なので、高3生の参加は少ないのが実状です。
そんなわけでJMOの参加者は高1、高2がほとんどを占めます。たまにIMOのメダリストに高1生がいますが、そういう子は中3の時のJMOで上位に入ったということなので、正にすごいの一言です。
そこまですごい子はさすがにまれで、通常中学生はジュニア数学五輪(JJMO)に参加します。JJMOは中学生までしか参加資格がありません。JJMOの開催日はJMOと同じ日程なので、どちらか一方しかエントリーできません。だから自信のある中学生はJMOだけに挑戦しているのです。
数学五輪の息子の成績
息子は中学時代はジュニア数学五輪(JJMO)に、高校では数学五輪(JMO)に参加しました。
数学オリンピック協会とは別組織の算数オリンピック委員会が主催する算数オリンピック・広中杯に挑戦していましたが、その流れで数学オリンピックの方にも自然と挑戦することになりました。
将来は数学オリンピックに参加してほしいという親の希望を叶えてくれたというか、教育方針が思い通りにいったということなのでしょう、この点においては。子供はそうそう親の意向に沿ってはくれませんからありがたいことです。
中学時代
さて、中学のときのJJMOの方ですが、たいした成績を残すことはありませんでした。数学五輪は成績に応じて上位がAランクとされ、決勝に進むことができることは上記しましたが、それ以外にもB、Cランクが存在します。内訳はこんな感じです。
A 上位200名程度(5〜6%くらい)
B Aランクを含め上位50%まで
C それ以下
Aランクを含めて全体の上位10%までに入った人は、地区ごとの賞状がもらえます。つまりBランクでももう少しでAに入るという人は表彰されるというわけです。残念ながら息子が賞状をもらうことはありませんでした。あと一歩というところまで行かなかったということです。中3のときには広中杯でファイナル進出をしているのでJMMOでも、という期待はありましたが結果は出ませんでした。
高1のときの成績
高校からは数学五輪(JMO)です。最後の最後の中3で予選通過した広中杯のように、高2のときに予選を通過してくれればいいなと思っていました。ところがなんと、高1のときに決勝に進むことができたのです。高1の時は学校の成績、模試とノリにノっていましたが、まさかこれもとは。何もかもがうまく回っていたように思います。
これが表彰の盾です。全校生徒の前で表彰されて授与されました。息子の学校からのAランクは非常に珍しかったからか、特にひとつ上の高2生から感嘆の声が上がったことが忘れられない良い思い出になったそうです。息子の学生生活のハイライトのひとつとなりました。
2月に行われた決勝で好結果を残せるとは誰も思っていません。ここから先は本気で取り組んでいる人と好きな人だけが進める領域。決勝が目標の息子の歯が立つ相手ではありません。せめて数学が好きなら良かったのですが、そこまで望んではバチが当たります。家族一同みな満足でした。
高2のとき
高1で成功したから高2でも予選通過は堅い、と思うものです。ところが高2決勝に行くことはありませんでした。インフルエンザにやられてしまい、参加することができなかったからです。
実はこの1年の間、明らかに実力が上がるほど数学に打ち込んだかと問われるとハイと言えるレベルではなかったため、必ず決勝に行けたかはわかりません。ただ、決勝に残ってさらに合宿に招待されるような成績でなかったことは確実です。とはいえ、2年連続決勝進出の目はあっただけに残念でした。
ちょっと締まりのない形で息子の数学コンテストへのチャレンジはすべて終了しました。1年後のこの時期にはセンター試験が待っています。この残念な経験は、来年同じミスを繰り返さないように体調を万全にするための教訓にするしかありません。(その甲斐あってか、1年後のセンターは体調も問題なく臨めました。)
数学五輪対策
・トップ選手たち
数学五輪の常連校の生徒ならば、その学校の数学研究会などに入っていることが少なくないと思われます。そこに所属していれば難問のストックもありますし、お互いに問題を持ち寄ることもできます。何よりメダリストの先輩もいますし、ライバルとなる仲間も多く、刺激しあえる環境でしょう。
東京など都会なら、数学ができる人のための塾もあります。河合塾系のK会などが知られています。そういう場所では数学好きが集い、超ハイレベルな授業が行われているはず。メダリストとなるにはそんな環境が絶対有利なことは当然です。
我が家は塾なしでやってきましたが、もし息子が数学大好き人間だったら、そういう塾に行かせることは検討したでしょう。
・予選通過は過去問で可能
息子は数学大好きではなかったし、そこまでの才能もなかったので、目標は常に決勝進出でした。それくらいのレベルだと、過去問をやれば十分です。
数学オリンピックHPには、数学の勉強にはこういう本をつかうといいですよ、と紹介されているものがあります。
一応手に入れましたが、よく使用したとは言えません。過去問だけで良いと思います。もちろん本気で取り組む、または数学大好きならやった方が良いでしょう。
過去問や問題集の「問題点」
これらの本には重大な欠点があります。解説がわかりにくいのです。できる人向けに書かれていて、ハッキリ言って素人に使いこなせるものではありません。
数学好きの人にはわかるのかもしれませんが、あまりにも説明が少なすぎます。端折り過ぎなんです。とりわけ数学のできる人は余計な説明がないことをエレガントだと考える傾向です。そのため問題の解説までがエレガント過ぎて、数学脳でないと解読するのに骨が折れるのです。
私は数学は門外漢ですが、大人な分だけ解読力があったので、場合の数などまだガチの数学要素が少ないものの解読には手を貸しました。本当に必要最小限のことしか書かれていない、厳しい解説だと痛感させられます。
数学五輪関係者に要望です。もっと門戸を広げるため、もっとやさしい解説がついた問題集が必須です。現在、日本選手が世界トップレベルではありません。これを打破するには底辺を広げることです。そのためにはもっと独学でもそこそこのレベルに到達できる人材を増やすことです。
地方には塾に行けない数学好きがいるでしょう。そういう子を発掘して行くには独学できる易しい参考書や問題集が不可欠です。題材は過去問レベルで構いません。過去問集は数年分が納められていますが、1〜2年分でこの厚さになるくらいの解説が欲しいです。それなら使いこなせる人は劇的に増えるでしょう。
現時点ではこれらの本が比較的敷居が低めの設定なのでしょうが、まだまだもっとわかりやすい解説が欲しいですね。HPなどに載せてもらいたいと思います。
あと、数学の本は値段が高過ぎます。これも学生には大きな障壁です。
普通の子が数学五輪に取り組む意義
国際数学五輪(IMO)に進めるような選手やその予備軍の数学五輪(JMO)上位者にはなれない子にとって、数学五輪に参加することにどんな意味があるのでしょう。
大きいのは、大学受験レベルの数学ができるようになる可能性が高くなることです。特に場合の数や確率、数列、整数といった分野は、数学五輪で頻出です。これらの分野を鍛えるには実に最適なのです。
東大など難関大学ではこれらの分野からだいたい1〜2問出題されますが、どうやら苦手とする学生が多いようです。ここで差が付けられるのは大きな優位を生み出します。
そもそも数学五輪等の問題は、考える比率が通常の大学受験問題よりも高いので、自然と考える力が付きます。問題を解きまくって経験値を上げることで数学ができるようになるのは立派なことですが、思考力をつけておくと、できるようになるまでの時間はかなり短縮できるでしょう。また、初見の問題に対する対応力が違ってきます。やはり数学は思考力なのです。
数学五輪の成績で入れる大学
数学五輪の結果が推薦やAO入試に使える大学があります。
参考url:http://www.jst.go.jp/cpse/contest/pdf/2018_P11-12.pdf
この中でも目玉的存在なのが早稲田大学です。創造理工学部・先進理工学部の特別選抜入学試験に出願できるのです。
条件は予選合格のAランクです。現実問題、Aランクは大学受験レベルでは数学強者で、東大や医学部等の国公立難関を狙うことが多そうなので、どれくらい使っている人がいるかわかりませんが、創造理工学部には人気の建築学科などもあり、検討に値すると思います。
我が家でAOを考えたことはありませんが、その気になれば早稲田に入れると思えば、心が穏やかになったものでした。
他にも中央大学理工学部数学科の自己推薦はBランクでも出願可能です。国公立でも横浜市立大学などもBランクで出願できる科学オリンピック入試があります。
最後に
いかがだったでしょうか。国際大会でメダルを取るような人や、国内大会でも上位に入るような人の話はたまに目にしますが、決勝進出が目標の人の話は比較的珍しかったのではないでしょうか。数学五輪が前よりも身近なものと感じられたのではないでしょうか。
国際数学五輪でメダルを取るような日本代表選手の影に隠れて、何とか国内大会の決勝に残りたいとがんばっている参加者もいるんだな、と思い出してくださる方が増えれば、きっと数学のすそ野が広がって、世界で活躍する日本選手も増えるのではないでしょうか。
そして参加すること自体、それなりに良い効果が望めます。これを読んで数学コンテストに参加する人が増えてくれれば大変嬉しく思います。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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